とらのこ有機化学

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軌道は電子の部屋である

高校の化学でK殻とかL殻っていうのを習った気がしたけど、アレってなんだっけ?

じつは大学以降では、K殻とかはあまり使わず、もっと細かい入れ物で考えるんだよ。

え!そうなの?

 

化学の世界では、原子の種類(元素)を陽子の数に基づいて区別しています。
そのため陽子の数はとても大事ですが、同じように原子に含まれる電子の数も原子の性格・性質を大きく変える要素です。

原子核の外側を飛んでいる電子たちは、他の原子に含まれる電子と関わりあうことが多いです。つまり外交的な性質を持っている電子は、結合や化学反応では主役を担っているわけです。
電子たちの交流活動とも考えることができる化学結合や化学反応は、化学の面白さと奥深さを作り出していますね。

今回はその電子たちの居場所である軌道にスポットを当ててみましょう。

電子殻と軌道

原子核の周りに存在している電子は、決められた「部屋」に収まっていることが知られています。
軌道と呼ばれるこの「部屋」は、階層構造をしている電子殻(かく)の中にあります。マンションで言えば、電子殻 =「階」で、軌道=「部屋」になります。

電子が入る軌道には形の異なるいくつかの種類があります。

一番基本的なs軌道は丸い形をしていますが、p軌道は亜鈴形(ダンベル形)をしていて、亜鈴の軸方向が異なる3つが1セットになっています。
d軌道になると色々と形が違うものを含む5つの特徴的な軌道を形成します。

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さらに上のf軌道も、7つのキレイな形の軌道を作ってるけど、有機化学の世界でf軌道まで気にする必要はめったにないよ。

 

注意したいのは、軌道の種類と数の関係です。
s軌道は1つ、p軌道は3つ、d軌道は5つの、同じ安定性をもつ軌道の総称です。
それぞれ細かく分類すると、p軌道はpx、py、pzの3つ、d軌道にはdxy、dyz、dzx、dx2-y2、dz2と呼ばれる5つの軌道が存在します。

これら細かい分類は、混成軌道や配位結合など、細かい軌道の区別が大切な場合は意識されますが、はじめのうちは「s軌道は1つ、p軌道は3つ、d軌道は5つ」とだけ覚えておけばOKでしょう。

また、p軌道、d軌道、f軌道が登場する電子殻にも注意が必要です。
p軌道は2番目の電子殻以降に存在し、d軌道は3番目、f軌道は4番目の電子殻以降に現れます。
下の図のように見ためが階段状になると覚えた方が分かりやすいですね。

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原子核に一番近い1番目の電子殻(K殻)には、s軌道である1s軌道のみ存在します。
2番目の電子殻(L殻)には、s軌道の2s軌道が1つとp軌道である2p軌道が3つあり、合計4つの軌道が存在します。
さらに上の3番目の殻(M殻)には3s軌道が1つ、3p軌道が3つ、3d軌道が5つあり、上の殻に行けば行くほど多くの軌道が用意されています。

積み上げ原理(構造原理)

マイナスの電荷を帯びている電子は、原子核に含まれるプラスの陽子と近いほど電気的に中性に近づき、より安定に存在できます。
そのため、原子核に近い軌道(=低層階の部屋)ほど電子たちに人気が高く、すぐに埋まってしまいます。
エネルギーの低い軌道から電子が収容される様を、積み上げ原理と言ったりします。

軌道のエネルギーの順番は、必ずしも電子殻の番号通りではなく、左下の図のように、右上から矢印が降り注いだような順番になります。
軌道エネルギーの順番も、図としてイメージで覚えたほうが分かりやすいですね。

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4sって3dよりもエネルギー低いんだなー。5sとかも割と早めに順番回って来てんなぁ。

 

パウリの排他原理

エネルギーの低い軌道が電子にとって居心地がよく人気なわけですが、軌道の「部屋」としての広さは限りがあります。
具体的には、「1つの軌道に入れる電子は最大2コまで」というルールがあり、パウリの排他原理(排他律)と呼ばれています。
つまり軌道には、電子が1コ、2コ、0コ(入っていない)の3つの状態があることがわかります。

パウリの排他原理にはもうひとつ大事なルールがあって、「電子が2コ入る場合は、電子スピンの向きを逆にして入る」というものがです。
電子スピンについて詳しくは触れませんが、上向き矢印と下向き矢印でよく表現される電子スピンの向きが、1つの軌道内で揃うことはない、とも言えます。

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飯屋で相席した時に、向かい合わせでしか座れない感じだな・・・

 

フントの規則

軌道への電子の入り方には、もう一つルールがあって、「エネルギーの等しい軌道に電子が入る時はなるべく均等に入りましょう」というものです。
たとえばp軌道にはpx、py、pzの3つの軌道がありますが、3つ目の電子まではそれぞれバラバラに入った方が有利ということです。

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やっぱりみんな自分の席を確保したいからね。

 

電子配置

電子配置は、原子に電子がどのように収容されているかを表現したものです。
上で見てきた積み上げ原理やパウリの排他原理、フントの規則を守りながら電子が軌道に入って行きます。
たとえば、原子番号6の炭素(C)は電子を6個持っているわけですが、下の図のように1s、2s、2pとエネルギーの低い軌道を使って電子を収容して行きます。
配置された電子の様子を文字で、1s22s22px2py (より簡略すると1s22s22p2)と表すこともできます。この文字で表したものを炭素の電子配置と言います。

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原子番号8の酸素(O)の電子配置は1s22s22px22py2pz (=1s22s22p4)になり、原子番号18のアルゴン(Ar)は1s22s22p63s23p6です。

電子配置は、どの軌道に何個電子が入っているのか、わりと簡単に判断できるようにするツールというわけです。

まとめ

電子殻と軌道についてザックリまとめると、1番目の電子殻(K殻)は1s軌道が1つあるので電子を2コ収容でき、2s、2p x 3の4つの軌道がある2番目の電子殻(L殻)では8コの電子が、3s、3p x 3、3d x 5の9つの軌道をもつ3番目の電子殻(M殻)には全部で18コ、電子を収容できることになります。

原子番号が大きい原子ほど多くの電子を所有しているので、より多くの軌道を使って電子を収容していくことになります。
この電子の収容のされ方が、化学反応など、ほかの原子との関わり方に強く影響するわけです。